「いつまでも続いてくれ」と思った映画は初めてかもしれない。
公衆トイレの掃除を仕事とする主人公が、貧しいながらも幸せに生きていく話なのだけど、急激に変化する展開もなく、大きく話が動くこともない。それでもちょっとしたシーンで喜びや悲しみを感じる不思議な映画だった。
その中でも、特に「幸せは何気ないところにある」というメッセージを感じた。木漏れ日の美しさに始まり、自分の趣味、そしてマイペースに生きるということ。大金を稼がなくても、他人に勝たなくても、不便な生活でも幸せに生きることができる。むしろ、逆にそれらがない方が幸せになれるのではないか、というメッセージが込められているように感じた。
ただ一方で、幼い頃に学んだ知識や教養がそういった幸せを生んでいるようにも感じた。主人公の平山はカセットテープで古い洋楽を聴き、古本屋で文庫本を買って読んでいる。本人は何気なくそうしているだけかもしれないが、それらが人を惹きつけているシーンが描かれている。
では、そのような知識や教養はどこから得られたのか? もちろん貧しい暮らしでも子供に教育を受けさせることはできる。しかし、確率論から言うと、ある程度裕福な方が有利であることは間違いない。平山は最初から貧しかったのではない。裕福な家庭に生まれながらも、その生活に疲れ、飽きた結果、今の生活を手に入れたのだ。裕福な生活をする主人公の妹と「住んでいる世界が違う」と言うシーンがあるが、同じように生まれた時から貧しい人間とも「住んでいる世界が違う」はずだ。平山の妹はニコを育てることができたが、同じことを平山はできただろうか?
とはいえ、ストーリーの骨格にある、日々の繰り返しにも小さな幸せがいくつもある、という話はとても感銘を受けた。自分の人生を変える一作であることは間違いない。もう一度、いや何度でも見たい作品だった。